『夔一足』の書き下し文を作ってみた(原文・書き下し文)
あらすじ
これは『呂氏春秋』から取り出した文章です。本文の趣旨は「察伝」となります。噂は必ず詳らかにすべきで、もしそうしないなら、その噂を信じない方がいいということです。
原文
夫伝言不可以不察、数伝而白為黒、黒為白。故狗似玃、玃似母猴、母猴似人、人之与狗則遠矣。此愚者之所以大過也。聞而審、則為福矣。聞而不審、不若不聞矣。
凡聞言必熟論、其於人必験之以理、魯哀公問於孔子曰、「楽正夔一足、信乎。」孔子曰、「昔者舜欲以楽伝教於天下、乃令重黎挙夔於草莽之中而進之、舜以為楽正。夔於是正六律、和五声、以通八風。而天下大服。重黎又欲益求人、舜曰、『夫楽、天地之精也、得失之節也。故惟聖人為能和、和、楽之本也。夔能和之、以平天下、若夔者一而足矣。』故曰『夔一足』、非『一足』也。」宋之丁氏家無井、而出溉汲、常一人居外。及其家穿井、告人曰、「吾穿井得一人。」有聞而伝之者曰「丁氏穿井得一人。」国人道之、聞之於宋君。宋君令人問之於丁氏、丁氏対曰、「得一人之使、非得一人於井中也。」求聞之若此、不若不聞也。
書き下し文
夫伝言不可以不察、数伝而白為黒、黒為白。
夫れ伝言は以て察せざるべからず。数伝して白を黒と為し、黒を白と為す。
故狗似玃、玃似母猴、母猴似人、人之与狗則遠矣。
故に狗は
此愚者之所以大過也。
此れ愚者の大いに過る
聞而審、則為福矣。聞而不審、不若不聞矣。
聞きて
凡聞言必熟論、其於人必験之以理、
凡そ言を聞かば必ず熟論し、其の人に於けるや、必ず之を験するに理を以てす。
魯哀公問於孔子曰、「楽正夔一足、信乎。」
魯の哀公孔子に問ひて曰く、「楽正の夔は一足たり。信なるか。」と。
孔子曰、「昔者舜欲以楽伝教於天下、乃令重黎挙夔於草莽之中而進之、舜以為楽正。
孔子曰く、「
夔於是正六律、和五声、以通八風。而天下大服。
夔是に於いて六律を正し、五声を
重黎又欲益求人、舜曰、『夫楽、天地之精也、得失之節也。
重黎又た
故惟聖人為能和、和、楽之本也。
- 故に惟だ聖人のみ、能く和するを為す。和、楽の本なり。
- 故に惟だ聖人のみ、能く
和 す。和、楽の本を為すなり。
夔能和之、以平天下、若夔者一而足矣。』
夔能く之を和し、以て天下を平らかにす。夔の若き者は、一にして足れり。』と。
故曰『夔一足』、非『一足』也。」
故に曰く、『夔は一にして足れり』と、『一足たり』に非らざるなり。
宋之丁氏家無井、而出溉汲、常一人居外。
宋の丁氏、家に井無し、而して出で溉汲す。常に一人外に居る。
及其家穿井、告人曰、「吾穿井得一人。」
其の家、井を穿つに及び、人に告げて曰く、「吾、井を穿つに一人のみを得。」と、
有聞而伝之者曰「丁氏穿井得一人。」
聞きて之を伝ふる者有り、曰く、「丁氏井を穿ちて一人を得たり。」と。
国人道之、聞之於宋君。
国人之を道ひ、之を宋君に聞こえしむ。
宋君令人問之於丁氏、丁氏対曰、「得一人之使、非得一人於井中也。」
宋君人をして之を丁氏に問はしむ。丁氏対へて曰く、「一人の使を得たり。井中に一人を得しに非ざるなり。」と。
求聞之若此、不若不聞也。
聞を求むるに此の如かば、聞かざるに若かざるなり。